散るぞ悲しき
雨で平日なのに映画館はかなりの混雑をきわめていた。クリント・イーストウッド監督ポール・ハギス脚本の『硫黄島からの手紙』私の大好きなコンビで製作された作品。半年ほど前にテレビで紹介されていたのをきっかけに原作の基となった『散るぞ悲しき』を先に読んでいたのでスクリーンに映し出された映像に違和感なく入っていけた。
- 作者: 梯久美子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/07/28
- メディア: 単行本
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初めから死ぬ覚悟で硫黄島に入り、いかに本土上陸を食い止めるか。玉砕や投降などを決して許さず最後の一人になるまで闘うことを自らにも部下達にも課した厳格でいて合理的な指揮官の栗林中将。それは全て御国のため陛下のためという御旗だけでなく国で待つ妻子や市井の人々に戦火が及ぶ事を懼れ按じていたからに過ぎない。あの時代、戦線に旅立って行った沢山の兵士達は皆そう思って心で血の涙を流しながら散って逝ったのだと思う。誰が敗けると分かっている戦いを好んでするだろう。家族と共に平和で健やかに暮らしたいに決まっている。しかし全ては美しい故郷や家族を守るため人柱になったのだ。映画でも描かれていたが、本の方ではもっとそうした家族に宛てた手紙の部分がクローズアップされていて映画を観る前に読んだほうがより深く理解できると思う。激しく過酷な日々。決して生きて再び家族の元に帰れないであろうと狂気と隣り合わせの毎日の中で手紙を書くひと時だけが人間らしさや日常を忘れることの出来る貴重な時間だったのだと思う。未だ殆どの遺骨が硫黄島に残されて家族の元に帰っていない現実。陥落されたあと米軍によってアスファルトを流された滑走路の下にも数千の遺骨が眠っているままだという。『国のため重きつとめを果たし得て矢弾つき果て散るぞ悲しき』かつて命を投げ出し守ろうとした国は荒れ果て、廃れ、拝金主義に成り下がってしまった。栗林中将や英霊達はどんな思いで今のこの国を見ているのだろう…。